不埒なディンクス女の吐き出すくだらない言葉(パソコン閲覧限定)

罵詈雑言-本能ノ趣クママニ

あなたがその時々に投げかける私への言葉には
きっと深い意味はないのだろうけど

私が聞きたい言葉をわざと封じ込めるその行為には
きっと特別な理由があるような

そんな気が

 
「さて、ここで問題。けいちゃんがもたれているその壁、その壁に使われている木材が何かわかる?」

久保田(千寿)を一口すすった後、ほぼ完全な鼻声でそう問いかけてきた。
どの花粉に反応しているのか知らないけれど、彼の鼻声がきっとヒントなんだろうと思ったので、蓮根と大葉のはさみ揚げをビールで流し込んだ後、自信たっぷりに「スギ!」と答えた。

「ブブー、残念。違う。これはね、ヒノキ」

そう言いながら、おもむろに腰を上げる彼。
テーブルに置いた右腕で体を支えながら、私の耳をかすめて左腕で軽く壁ドン、心臓がトクンと鳴る。

「触ってみて、この触感がヒノキの特徴」

彼が撫でる近くを言われるがまま触ってみたけれど「この触感」が「どの触感」なのか、全然わからない。

東京のS大学で建築を学んだ彼。
今の仕事はその時に学んだことを活かせる場所ではないけれど、今後も使うことはおそらくないけれど、それでも何かを捨てきれない彼は、毎月第三日曜日に大阪で開かれている研修会に参加している。勿論、仕事とは無関係の完全プライベートで。
今得ている知識をどこで使うとも知れないのに、時間と体力とお金を費やして足しげく通って、そして研修会の前日にこうやって私との時間を作ってくれている。

でも、約束はしない。「来月の研修会にも参加する予定」とは言うけれど、前日のことは口にしない。
そして、第三日曜日が近くなってくると「○月○日、そっちに行きます。前日の土曜日のけいちゃんの都合を聞かせて下さい」と、まるで業務連絡のような短いメールが届く。

本当は、第三日曜日とその前日のことなんか、気にも留めたくない。
仕事に遊びに、そして家族にと、彼のことなんか考える暇なんて全然なかった―、と言いたい。
なのに結局は、殆どのことを押しのけて、彼中心で私の時間が動いている。
嗚呼、本当に腹立たしい。
仕事だと致し方ないけれど、プライベートで予定が入りそうになると「先約あり」と全て断ってしまう自分がいる。

いつも毎月第三土曜日から翌日の早朝にかけての私は彼のための私。

---

「前回、室内のスリッパを一人分しか用意していなかったことを詫びられた」

カードキーをかざしてエレベーターの「8」のボタンを押し、もう一枚のキーと、きっと今回も使われることのない朝食券を私に預けながら相も変わらず鼻声でそう話す彼。

「で、今回は大きめの部屋をご用意しました―、だって」
「またシングルじゃなくダブルの部屋を予約したのね、今日は終電で帰るって言ったのに」

有言不実行の自分を棚に上げて、コンビニで買い足した缶ビールと野菜スティック、それからミックスナッツが入った袋を持ち直しながら、聞こえるように独り言を呟いた。
建物の中心が吹き抜けになっていて、部屋までの通路を並んで歩く私たちを夜空の星が睨み付けている。

「ねえ、私が“今日は帰る”って言ったらどうした?」
「別に。優雅に大きなベッドを独り占めするだけ。でも見てみ、前より全然広いよ、今日の部屋」

静かに閉まる扉、見上げてもさっきまで睨み付けていた星はもういない。
それ以降の会話を他の誰かに聞かれることも、もうない。




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●日記は「本館」で綴っています。基本、非常に駄文です。(最終更新:2016/12/21

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